
2025年後半、世界のテクノロジー業界とEC業界に大きな波が押し寄せました。
OpenAIとGoogle、AIの二大巨頭が、ほぼ同時期に「AIショッピング機能」を発表しました。
OpenAIは「Instant Checkout」機能を、アメリカ国内でEtsy出店者向けに提供開始。ChatGPT上の会話の中で商品を見つけ、購入まで完結できる仕組みを実装しました。
一方のGoogleも「Shop with AI Mode」を発表。ユーザーが自分の写真をアップロードすると、AIが服を試着した姿をシミュレーションしてくれるというものです。

最近のAIの進化の早さを見ているといつかは“AIチャットで買い物完結”サービスが、と思っていたことが早くも現実のものになってきました。
こんにちは。OMOKAJIの立川です。
先日の2025年11月4日発売の『日経トレンディ』12月号「2026年ヒット予測100」では、この新しい購買体験が第4位に選ばれていました。
特集タイトルにはこうあります。
「生成AIショッピング──ユーザーの意図や好みを理解し、買い物ストレスから解放する“令和のご用聞き”」
AIが、いよいよ私たちの購買の意思決定である“財布のひも”を握り始めたのです。
本コラムでは、これまでのECの変遷を振り返りながら、2025年に登場した生成AIショッピングによってEC市場がどう変化するのか、そして中小EC事業者が2026年にどのような戦略を取るべきかを、具体的に示していきます。
- 1. ECの進化と、ずっと解けなかったある課題
- 1.1. OpenAI の「Instant Checkout」機能とは
- 1.2. Google の「Shop with AI Mode」とは
- 1.2.1. 従来のECとAIショッピングの決定的な違い
- 2. AIが変えるのは“検索”ではなく“選択”
- 3. 国内ECの構造とAI勢の衝撃
- 4. 自社ECサイトに訪れる新しいチャンス
- 5. AI時代に必要な「語彙力」と「データ提供力」
- 5.1. 「語彙力」を磨きブランドの独自性を言語化する
- 5.1.1. 具体的にやるべきこと
- 5.1.2. 失敗例と成功例
- 5.2. データ提供力を高めるAIが読み取りやすい情報構造
- 5.2.1. 具体的にやるべきこと
- 5.3. 多チャネル展開で接点を増やしながら、自社ECへ誘導
- 5.3.1. 具体的にやるべきこと
- 5.4. お客様との対話を大切にし、AIにはできない人間的な接点を持つ
- 5.4.1. 具体的にやるべきこと
- 5.5. AIの進化を味方につける
- 6. 顧客と直接つながるD2Cモデル
- 7. 中小EC事業者が2026年にやるべき7つのこと
- 7.1. OMOKAJIからの提言「中小EC事業者が2026年にやるべき7つのこと」
ECの進化と、ずっと解けなかったある課題
日本のECの歴史は1997年の楽天市場、2000年のAmazonの日本上陸から始まりました。
当初のECは「店舗にない商品を」「安く」買うための手段でしたが、参入企業が増え、商品情報が豊富になり、便利さが最大の価値となりました。
時代が進むにつれて、消費者は「情報過多」という新たな悩みに直面します。
膨大な商品情報の中から「どれを選べばいいか分からない」と課題が出てきました。
この問題は、EC誕生以来ずっと解決されていないテーマでした。AIショッピングは、この課題を解決してくれようとしています。
実店舗であれば、販売スタッフとの会話を通じて、ニーズや優先順位の言語化と商品提案が繰り返されます。買うことへの「納得を見つけ出す」プロセスがあるわけです。しかし、ECにはそれがない。
2010年代後半になると、ECの「メディア化」が加速してきます。
画像・動画、説明文など商品情報がリッチ化し、販売商品が増えていきます。単なる売場としてだけでなく、多様な商品の検索・発見・比較が容易な情報発信の場となり、商品選びをサポートする重要な要素となりました。
また、InstagramやTikTokをはじめとするSNS経由の消費者行動が増え、SNSはモノを発見・検索する場の役割を持つようになりました。身近な友人・知人やインフルエンサーが使用・推奨する商品を購入するという行動も、「情報過多」による消費者の悩みに起因しています。
自分で最適な商品を見つけ出す難しさから、信頼できる人の商品選択に委ねることで、満足度の高い購買体験を得ようというわけです。
そして、2025年の9月、世界のテクノロジーとEC業界に、大きな激震が走りました。
OpenAIとGoogleが、ほぼ同じ時期に「AIショッピング機能」を発表しました。
OpenAI の「Instant Checkout」機能とは

2025年9月、OpenAIがアメリカ国内で「Instant Checkout」機能の提供を始めました。
これはChatGPT内でオンラインショッピングを完結できる画期的な仕組みです。
ユーザーはチャットしながら商品情報を得て、「Buy」ボタンをタップするとチャットから離れずに購入までできるようになります。
この仕組みの核心は「ACP(Agentic Commerce Protocol)」という、オープンソースのプロトコルにあります。これは、販売事業者が自社の商品データをシステムに接続しさえすれば、生成AI「ChatGPT」上で即座に商品を販売できるという画期的な仕組みです。
Google の「Shop with AI Mode」とは

さらに商品探索に特化させた「Shop with AI Mode」によって、ユーザーはAIとの対話を通じて、自身のニーズに最適な商品を「見つけて、教えてもらう」ことができます。
ユーザーが自分の写真をアップロードして、見つけた服を着たらどう見えるかシミュレーションできる「バーチャル試着(Virtual Try-On)」機能なども搭載されています。
将来的には、ユーザーが指定した条件を満たしたらGoogleが購入代行まで行うとも発表されています。
従来のECとAIショッピングの決定的な違い
これまでのECとAIショッピングの違いを整理します。
従来のECモール:
- 出店料や販売手数料が発生
- 「検索→比較→カートに入れる→決済」という複雑なプロセス
AIショッピング:
- 基本的に販売事業者に手数料が発生しない
- 「AIとの会話→提案→購入確定」というわずか1ステップで完結
これは、「Amazonに出品する」のではなく、『ChatGPTの会話空間そのものを、新しい店頭にする』といった、概念の根本的な転換を意味します。
これらの動きは、AIエージェントがユーザーの購買プロセスを代行し、AIとのチャット内で購買を完結させるという新たなECが今後拡大していくことを示しています。

消費者の購買体験を根本的に変えるだけでなく、EC業界全体に計り知れない影響を与えるかもしれません。
AIが変えるのは“検索”ではなく“選択”
AIエージェントを介したECでは、ユーザーはもう検索をしません。
「週末にゆっくりできるお茶が欲しい」と話しかけるだけで、AIが最適な商品を選び、購入まで導きます。
AIは人間をはるかに超える情報処理力を持ち、検索・比較・最適提案を瞬時に行います。しかも、ユーザーの会話履歴や好みをもとに、本人がまだ気づいていないニーズまで推測します。
経済産業省の「電子商取引に関する市場調査(令和6年度)」によると、日本の物販EC化率は9.8%。便利さを追求しても、消費者の購買行動は急には変わりません。「AIが選んでくれる」だけでは、まだ購買の決定打にはならないのです。

経済産業省の「電子商取引に関する市場調査(令和6年度)」をわかりやすく解説したコラムはこちら
日本の消費者が最後に「買う」ボタンを押すとき、求めているのは「納得」です。
この納得を設計できる企業だけが、AI時代の勝者になります。
国内ECの構造とAI勢の衝撃
国内のEC市場は、Amazonと楽天の二強に、LINEヤフーが続く構造。
Amazonは配送を含めた統合体験という絶対的な強みを持ち、楽天市場はポイント経済圏による囲い込みで優位性を保っています。
AI勢の登場は、こうした構造を脅かす可能性も秘めています。
ChatGPT内でのInstant Checkout、GoogleのAI Mode、TikTok Shopの日本展開など、「モールに行かなくても買える仕組み」が広がれば、EC事業者と消費者の距離が近づきます。
しかし、短期的には既存モールがすぐに淘汰されることはないでしょう。重要なのは、AIによる新しい購買体験が拡がる中で既存のモールがどのように反応してくるか、そのモールの反応にEC事業者はいち早く対応することです。
自社ECサイトに訪れる新しいチャンス
AIショッピングは、EC事業者にとって脅威ではなくチャンスでもあります。
これまでモールに支払っていた販売手数料や広告費を削減し、AI経由で自社ECへの直接流入が増える可能性があるからです。
ただし、AIに自社の商品を見つけてもらうためには、「AIが読み取れるデータ」と「AIが引用したくなる言葉」を用意しなければなりません。
もし情報が不足していれば、AIはあなたの商品を推薦しません。
AI時代の競争力は、もはや広告費ではなく「データの質」と「語彙の力」です。
AI時代に必要な「語彙力」と「データ提供力」
では、具体的に中小EC事業者は何をすべきでしょうか。OMOKAJIが大切にしている「お客様視点」を軸に、具体的な施策を示します。

「語彙力」を磨きブランドの独自性を言語化する
AI時代のEC戦略は、単にインターネット上に商品を並べることではなくなります。
「自分たちの想いを伝え、この商品でどんな価値を提供したいのか」を明確に言語化して、それをAIにも伝わる形で構造的に発信することが重要になります。
具体的にやるべきこと
商品の背景・ストーリーを丁寧に記述
- なぜこの商品を作ったのか
- どんな課題を解決するのか
- どんなお客様に喜んでもらいたいのか
使用シーンを具体的に描写
- 誰が、いつ、どこで、どのように使うのか
- どんな気持ちになれるのか
専門用語と一般用語のバランス
- AIは専門用語も理解するが、一般の言葉での説明も必要
- 様々な検索キーワードに対応できる幅広い表現
失敗例と成功例
× 失敗例:「高品質な革製品です」
◯ 成功例:「イタリア・トスカーナ地方の老舗タンナーで3ヶ月かけて鞣した植物タンニンレザーを使用。使い込むほどに深みを増す経年変化を楽しめる、一生モノの革製品です。ビジネスシーンはもちろん、カジュアルな装いにも馴染むシンプルなデザイン。30代-50代の、モノを大切に長く使いたい方におすすめです」
データ提供力を高めるAIが読み取りやすい情報構造
次に、AIに正確に商品を理解してもらうためには、構造化されたデータが必要です。
具体的にやるべきこと
商品マスタの整備
- 商品画像の充実
- 商品レビューデータの蓄積
- FAQ(よくある質問)の整備
技術的な対応
- 構造化データマークアップ(schema.org)の実装
(schema.orgとは、Google、Yahoo!、Microsoftなどの主要な検索エンジンが共同で立ち上げた、検索エンジンにウェブサイトの情報を正確に伝えるための「構造化データ」の共通語彙(ボキャブラリー)です。ウェブページの内容を機械が読み取れるようにマークアップ(コード記述)することで、検索エンジンがコンテンツをより深く理解し、検索結果に「リッチスニペット」などの詳細情報(例:商品の画像や価格、レビューの★★★など)を表示しやすくなります。
Google 検索における構造化データのマークアップの概要
https://developers.google.com/search/docs/appearance/structured-data/intro-structured-data?hl=ja

自社のECサイトが構造化データマークアップに対応しているか、このページからチェックすることができます。
構造化データをテスト
https://developers.google.com/search/docs/appearance/structured-data?hl=ja


- API連携の準備
(アメリカ国内でEtsy、shopifyに続き、国産EC ASPでもmakeshop、BASEなどがおそらく来年以降順次アプリなどで対応してくることが予想されます)
多チャネル展開で接点を増やしながら、自社ECへ誘導
AIエージェントが普及しても、お客様との接点は多様であり続けるでしょう。
具体的にやるべきこと
- 自社ECサイトの強化
- モールECへの出店(選択的に)
- SNSでの情報発信
- コンテンツマーケティング
お客様との対話を大切にし、AIにはできない人間的な接点を持つ
AIがどれほど進化しても、人間的な温かみや、きめ細やかな配慮まで完全に再現することはまだ難しいでしょう。
具体的にやるべきこと
- カスタマーサポートの充実
- パーソナライズされたコミュニケーション
- アフターフォロー
AIの進化を味方につける
AIの性能が今後も向上し続け、ユーザーとの会話を通じて深い理解が進めば話は変わります。
AIはユーザーが今入力した要求だけでなく、過去に相談していた履歴から文脈や嗜好を読み取り、「あなたが言っていることはこうだが、実際に必要なのはコレでは?」と逆提案することもできるようになるかもしれません。
これは、むしろEC事業者が本来自社ECで提供したい価値に近づく方向性と言えるのではないでしょうか。
従来のモールEC内での競争は、「売れれば売れるほど優位になる」というアルゴリズムへの対応でした。
しかしAIを介する時代には、単にアルゴリズムをハックするテクニックではなく、商品力とブランドの真の魅力がものを言う世界に変わってくると考えています。
顧客と直接つながるD2Cモデル
AIショッピングの登場によって、「顧客と直接つながるD2Cモデル」が再び注目されています。
かつてはECだけで販売するスタイルとして語られたD2Cですが、本質は「直接顧客と情報共有し、フィードバックを商品に生かす」ことにあります。
AIを介した購買が広がれば、中小ECでも自社の想いや商品の良さを(モールや卸・小売などの仲介業者を通さずに)直接伝える機会が増えます。AIが媒介となり、“規模よりも個性”が武器になる時代が来ます。
中小EC事業者が2026年にやるべき7つのこと
2025年9月のOpenAIとGoogleの発表は、EC業界にとって大きな転換点となりました。
EC事業の成功の鍵は、いつの時代も「お客様を深く理解し、お客様が本当に求めているものを提供すること」にあります。
AIは確かに強力なツールですが、お客様との信頼関係、事業者の想い、人間的な温かみまで代替することはできません。

OMOKAJIからの提言「中小EC事業者が2026年にやるべき7つのこと」
- 自社の独自性を言語化する(語彙力を磨く)
- AIが理解しやすいデータ構造を整備する(データ提供力を高める)
- 多様な接点でお客様と出会う(多チャネル展開)
- 人間にしかできない対話を大切にする(お客様との関係性)
- 経営層の理解と適切な人材配置(組織体制の整備)
- 価格ではなく価値で勝負する(独自性を磨く)
- 小さく始めて、学びながら拡大する(段階的な実験)
AIショッピングの時代は、大企業だけが有利になる時代ではありません。

むしろ、お客様一人一人と真摯に向き合い、独自の価値を提供しする中小EC事業者にとって、大きなチャンスが訪れています。
なぜなら、AIは「本質的に良いもの」「お客様のニーズに本当に合っているもの」を見つけ出す能力を持っているからです。
大手プラットフォームの広告費や、アルゴリズムのハックではなく、商品力とブランドの真正性が評価される世界。
それが、2026年以降のEC市場です。

ここまで本コラムを読んでいただきありがとうございます。
来年おもしろいことをしてみたい!と少しでもピンと来たことがありましたら、ぜひお気軽にお声がけください。
OMOKAJIでは、これからもお客様を大切にするEC事業者の皆様とともに、この新しい時代を切り拓いていきます。

